Grand Master Flashに影響を受けターンテーブルに魅了され、その後それ以外のものに振り向くことはなかったと言う。13歳の頃からすでにDr Scratch名義でヒップホップDJとして活躍しており、未だ最前線にて常に実験的音楽を世に送り出している奇才プロデューサー、Maurice Fulton。
1984年、ボルチモアのゲイクラブHATSにてガラージミュージックをプレイし始め、2年後にはボルチモアで指折りのDJとして知られるようになっていた。当時のヒップホップシーンの暴力性を体験するなどし、ガラージの道へと傾倒していった彼は、伝説のクラブOdell’sでのレジデントを担当する傍らボルチモアのレコードショップで働くようになる。ここで現在のBasement Boys、Tommy、Teddy、Jayに出会い、トラック制作に関わるようになる。Mauriceのキーボードとドラムプログラミングは、Basement BoysがプロデュースしたUltra NateやCrystal Watersの作品で聞くことができる。
1996年ニューヨークに拠点を移し、〈Warp〉〈SSR〉〈Discfunction〉〈Nuphonic〉〈Transfusion〉〈Pagan〉〈Sahko〉などのレーベルから様々な名義で作品をリリース。実験的でアブストラクトな彼の作品は、シングルはもちろん、自身の波瀾万丈な人生をストーリー展開したアルバムまで、ヨーロッパにおいて絶大なる支持を受けた。
2000年にはメルボルンへ移り住み、自身のレーベル〈Bubble Tease〉を立ち上げる。現在はイギリスのシェフィールドに拠点を移し、妻でもあるMU (カナモリムツミ) のプロデュースも手掛け、エレクトロで挑発的な彼のトラックはハウスファンだけでなく、テクノ/ブレイクビーツ/ジャズとジャンルを越えて絶大な評価を得ているのである。
2005年には〈Liquid Recordings〉よりBoof名義でアルバム「A Soft Kiss By a Rose」をリリース。さらに2011年「Shhh, Dandelions At Play (Running Back)」、2015年3月「The Hydrangeas Whisper (BubbleTease Communications)」と続き、2016年はDJ Noriとの共作「We Don’t Know Ep」、2017年はMutsumiの「Mutsumi」、2018年にはMauriceプロデュースによるバンドSyclopsの「I’ve Got My Eye On You」をリリース。
さらにRoisin Murphyの「All My Dreams / Innocence」や「Plaything」をプロデュースするなど、高いクオリティとオリジナル性のあるアレンジで、より一層幅広いファンを獲得し続けている。
またDJとしても世界中を飛び回っており、日本においては2019年のRainbow Disco Club Red Bull Stageでの出演のほか、毎年夏の時期にFulton一家が里帰りする度に、クラウドを発狂させフロアを魅了するMauriceワールドを体験できるということは、ある意味とても幸運なことなのではないだろうか。
・BubbleTease Communications
[ https://bubbleteasecommunications.bandcamp.com ]