彼女ほど経験に裏付けられたDJがいるだろうか? ケルン拠点のミュージシャン/DJであるLena Willikensのことだ。そのプレイを支えているのは、実験精神と先進性をキーワードにしたコミュニティの場として注目を集めるSalon des Amateursで彼女が長年担当しているレジデントだ。ひとつのスタイルに縛られることなく、独自性のある個性的な音楽をジャンル問わず柔軟にミックスしていく彼女は、同市に限らず世界的な評価を獲得している。
彼女のもうひとつの基盤となっているラジオ番組『Radio Cómeme』では、所有するレコードコレクションからダークで予測不可能な音楽を世界に紹介し続けている。Willikensは少量ながら楽曲のリリースも行っており、自ら運営に携わっているレーベル〈Cómeme Records〉より「Phantom Delia」を発表している他、コンピレーションへの楽曲提供も行っている。ボディミュージックを彷彿とさせる硬質かつタイトなビートに偏執的なフレーズとボイスサンプルを乗せたトラックは、彼女の音楽性を凝縮しているかのように濃厚な深みを秘めている。そうした作品とDJから伺えるのは、既成概念にとらわれない自由で実験的な要素をダンスという肉体性と快楽性に結び付けている点だ。その結果、Willikensにしか成しえない特異なグルーヴによる殺伐としたサウンドスケープが実現されている。