Joe Claussell

Joaquin “Joe” Claussellは、音楽という小宇宙のなかで独特の世界観を築き上げる類稀なる才能を持つアーティストだ。ブルックリン出身の彼は、幼少の頃から母親や年上の兄弟たちの影響でSantana、Alice and John Coltrane、Black Sabbath、Jimi Hendrix、Grand Funk Railroad、Miles Davis、Led Zeppelin、WAR、Fela Kuti、Eddie Palmieri、Willie Colon、Hector Lavoe、Gil Scott Heron、The Headhunter、Pink Floyd、McCoy Tynerなど数々の著名アーティストの音楽を聴きながら育ったが、その頃彼の心に宿った音楽のスピリットは、未だ消えることなく彼の音楽の旅の道標となっている。

NY随一のダンスミュージック専門レコード店、Dance Tracksの若き経営者であったJoe Claussellが本格的にアンダーグラウンド・ハウスシーンに頭角を現わすのは、90年代初頭に立ち上げたレーベル”Jungle Sounds”より発表されたInstant House名義での一連のカルトヒット作「Over」「Awade」「Lost Horizon」のプロデュースを通じてであった。
また’96年にはInstant Houseのディープなトライバルサウンドのコンセプトをさらに進展させ、アフリカン・ブラジリアン・ジャズ・ロック等全ての要素を感じさせる生楽器の普遍的かつスピリチュアルなグルーヴに重きを置くレーベル、”Spiritual Life Music”を設立した。
音楽と純粋に向き会う”Spiritual Life Music”の一貫した方向性は、ハウスシーンのみならずジャンルの枠を超えて高く評価され、African Jazzの「Stubborn Problems」、Ten Cityの「Nothing’s Changed」、Jephte Guillaumeの「Voyage of Dreams」「Lakou-A」「The Prayer」、そしてSlam ModeやMateo & Matos、Blaze等による諸作品は、いずれもクラブクラシックスとなっている。
’01年には、これまでの”Spiritual Life Music”の活動を総括したCD2枚組のコンピレーションアルバム「Spiritual Life Music」をリリースしている。また当時レーベルマネージャーであったJerome Sydenhamは、Joeの活動に刺激されて”Ibadan Records”を後に設立したというが、それもまた凄い話である。

また”Spiritual Life Music”の設立と同じ年、Francois Kevorkian、Danny Krivitという大ベテランと共にNYのクラブVINYLにてBody & SOULをスタートさせた。The LoftやThe Paradise Garageといった伝説的パーティ/ヴェニューにインスピレーションを受けたBody & SOULでのDJプレイを通じ、Joeは音楽に託したメッセージを操り、ダンスフロアとの魂の伝達を試みている。そうした彼のディープでシリアスなDJスタイルは、多くの人々から熱烈に支持されている。

“Spiritual Life Music”とBody & SOULの成功を通じハウスシーンの第一人者となったJoe Claussellは、この頃からリミックスなどのプロダクションも精力的にこなし始める。Herbie Hancock、Femi Kuti、Tokyo Ska Paradise Orchestra、Chaka Khan、Michael Jackson、Beth Orton、Roy Ayers、Dennis Ferrer、Sade、Ananda Project、Mental Remedy、Monday Michiru、Cesaria Evora、Toni Braxton、Ronny Jordan、Nitin Sawhney、Nina Simone、Cassandra Wilson、Salif Keita、Diana Ross、Misia、Peter Gabriel、Brian Eno & David Byrne、Thom Yorke (Eraser)、Radio Heads、Womack and Womack、Louie Vega、Heather Johnson、Manuel Gottching、Ame、Joi、Miles Davis、Double Exposure、Pat Metheny、Hector Lavoe、Jephte Guillame、Vernon Read、DJ Kerri Chandlerといったアーティストの楽曲等、Joe Claussellがリミキサーとして関わった傑作には枚挙に暇がない。また彼はMental Remedy、The Bayara Citizens、Residue、Bolla Afrikan Basement、そしてTeenage Music等の別名義でも活動を行ってきた。

’99年にはアルバム「Language」をリリース。また、”King Street Sounds”のサブレーベル”Nite Grooves”から、独特の芸術性に貫かれたDJプレイをダイレクトに収録した2枚組ミックスCD「Mix The Vibe: Over 140 Minutes of Spiritual Journey」を、イギリスの”BBE”から「Music……. A Reason to Celebrate」を発表している。
また伝説のラテンミュージックレーベル”Fania”のリミックスアルバム「Hammock House」や、期待の高かった「The Unofficial Edits of Joaquin Joe Claussell」、そして「Cosmic Ritual LP」「Translate Part Two」、Lidy Sixの「Trembling Sensing Space」のプロジェクトを手掛け、これらの作品もそれぞれ高い評価を受け大ヒットした事は言うまでも無い。

世界各地での多忙なギグをこなす一方で、最近では地元NYのブルックリンにCosmic Artsという名のクリエイティブスペースをオープンし、音楽はもちろん、映像やライヴペインティングなど芸術全般をプレゼンテーションする場所を提供している。
ダンスミュージック業界において、ミュージシャン、DJ、そしてアートと3つの才能に長け、その全てをクリエイティブに、そして情熱をもって取り組む天才もめずらしい。彼は音楽をあやつる建築家であり、芸術のリーダーなのだ。
「音楽は私たちに人間の尊さをおしえ、真実をもたらし、またあらゆる束縛から私たちを解放させてくれると同時に、人々の心を一つにして愛と幸福をもたらす神聖なるもの」と語る彼は、同世代のアーティストのなかでも突出した存在であり、唯一無二の類まれなる才能を授かったアーティストのうちの一人だ。